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漫画レビュー:ガー『バッドメイド』[快楽天BEAST 2021.05] ヤンキー女子を魅力を肯定する物語

不良ジャンルのバグ

ヤンキーやギャルといった不良ジャンルではまれにバグが発生する。 関係が進むと不良を卒業してしまうというものだ。 他人に媚びずに自分のやりたいことをやるのが不良の個性であるはずなのに、キャラクターの成長によって見た目も中身も素直なものに更生されてしまう。
更生描写も作品のテーマによっては描く必然性もあるが、キャラクターを主眼に置いているのであれば意識しておかないと不良好きからお叱りを受けることもあるかもしれない。

この作品ではその点を上手く解決している。
意図的に成長物語として描かないことで不良が肯定される物語になっている。

ヤンキーとしての仁義』が関係を結び、『メイド喫茶従業員という職業』が誰にも見せられない姿を描く。ヤンキーとメイド、ギャップのある2つの記号が上手く融合し、ヒロインの魅力を大きく引き立てている。

主なキャラクター

モカ

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特攻服を着ている描写があるため、ギャルというよりはヤンキーと言ったほうが正しいだろう。 メイド喫茶の前で行き倒れていたところを店長に助けられる。 その恩返しとして、メイド喫茶で働き始める。
不器用だが一生懸命に仕事をする、笑顔が可愛い女の子。

以下、書くのが面倒なので職業人としてのメイド喫茶従業員を『メイド』と呼称していく。

●店長

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行き倒れていたモカを介抱した。 独身だが周囲の従業員からも慕われている様子が伺える。  モカの魅力をすぐに見抜き、その様子をSNSで喧伝している。

ピックアップ

●冒頭のオタクくんの台詞

このオタクくん。冒頭と最後に出てくるのだが、この物語において『ヤンキーメイドの肯定』を表現するための重要なキャラクターである。
その根拠となるのが冒頭に発する以下の台詞である。

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「いやー来るの久々だなぁ」
「ここのウリは静かで落ち着ける居心地の良さって所なんだけ…ど!?」

何故冒頭でわざわざこの台詞を言わせているのか。
久々に来店するに足る動機が存在することが伺える。 モカの存在に気づく前から「なんだけど」と話し始めていることから、今回は「静かで落ち着ける居心地の良さ」を目的とした来店ではない。
つまりこのオタクくん。店長がSNSにアップした画像を見てモカ目的で来店したのである(確信的推論)。

そう考えると店長の台詞「モカのおかげで助かってる部分もあるから心配するな」に根拠が生まれる。

●従業員募集のチラシ

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メイドさん急募 心を込めた接客が出来る方

老舗メイド喫茶での従業員急募
表立った描写は無いが、急募していたということは店長側も人材不足ないし経営で困っているところがあったのかもしれない。そう考えると、モカが力になってくれたことは渡りに船にだった。
この点も『助かっている部分』の一つと考えられる。

心を込めた接客
モカは不器用で客を怖がらせることはあったが、終始一貫して心を込めた接客を行っている。その想いが客であるオタクくんにもしっかり伝わっているようで、最後にモカの接客を求めてリピーターとして来店している。
モカは店長の求めるメイド像をしっかり達成しているのだ。

プレイシーン

ここでメイドというジョブが大いに活きてくる。 モカと店長の攻めと受けの関係が逆転し、互いに人前では見せられない側面を共有することになる。

▼ピックアップ台詞

「そういえば店長って結婚してんの?」
一応確認するところがしっかりしている

「そんな顔他の客に見せられないな」
「だからぜんぶ…っ」
メイドのロールプレイがモカの普段見せない側面を見せる。
裏表の無いキャラクターであっても、気を許した人にしか見せられない顔がある。

感想

最後に店長がSNSモカの写真をアップしていることがわかるというオチが良かったです。
成長では無く、気づきの物語。男女が互いの影響で互いを変えるのではなく、互いにアシストすることで一番良い結果を獲得したというところにカタルシスがありました。